これからも一緒にいたい

先生はいつも唐突だ。
出会ったときからしてそうだった。
いきなり現れて、意味深なことを言われて。
だけど、不思議とその言葉はすんなりと心の中に入ってきて、素直に従ってしまったものだった。

・・・急に消えてしまった、あの夏の日も。
あまりに突然で、その事実をどう納得したらいいのか、自分の中でも混乱していた。
先生が何を思っていたのか、どうして急に姿を消したのか。
何が悪かったのか、私はどうしたらいいのか。
気持ちに折り合いがつけられず、思考がぐるぐる回ってしまって、皆にもずいぶん心配をかけてしまった。
ううん、現在進行形で、きっと皆は心配してくれているだろう。
「もうちょっとだけ先生を探したい」
なんてわがままを言って、一人で出てきたから。

そして、今も。
「太刀筋に迷いがある」
不意に虚空からかけられた声。
聞き違えたりしない、落ち着いた艶のある低音。
「先生!?」
振り返ると、静かな眼差しで先生が立っていた。

どうして?
先生、戻ってきてくれたの?
私のこと、許してくれる?
跳ねるような喜びに踊る心と、不安という重りを沈めたような心。
ぐるぐると回転灯のように、それらが明滅しながら私の中で荒れ狂った。

とっさには謝罪も、一ノ谷で助けて貰った感謝も、逢えた喜びの言葉も出てこなくて、「本当に―先生ですよね?」なんて間抜けなことを呟く。

「どうして・・・」

私の疑問に、先生は一言、「答えられない」としか返してくれない。
だけど、「つまり戻ってきてくれるんですか?」という質問には頷いてくれた。


先生、私、もっとちゃんとするから。
強くなる。
そして、皆を、先生を守る。
浮ついた気持ちで、迷惑をかけないようにするから。
先生が教えてくれた剣に恥じないように、きっとなるから。
だから、ずっと―

傍にいることを許してください。

一緒に居られるだけでいい。
先生がこれまでみたいに、導いてくれるなら、それだけで・・・。



私の心の中はぐちゃぐちゃで、「曇った剣では斬れない」って先生の忠告も身に沁みてなくて・・・先生の静かな眼差しに深い翳が宿っていたことに気付けなかった。

湖みたいな色の瞳の奥に先生が隠していたものを、まだ知らず、知りたいと願うことすら・・・

ただ、先生が戻ってきてくれたと思って、勝手に浮かれていた。







だから、私は先生が再び行ってしまうのを、止めることが出来なかった。

「私はもう行く」
淡々と告げる声が、私の心には突き刺さるように届く。
「運命を見届けるために」

先生・・・
どうして?
先生が何を考えているのか・・・その言葉が何を意味しているのか、分からない。
私が、それを理解できないのがいけないの?
私は、なにかものすごく鈍感で、先生の期待を裏切ってしまったのだろうか?

私が馬鹿みたいに立ち尽くすしか出来ないでいる間に、先生は背を向けて行ってしまう。

「在るべきところへ帰りなさい」
私を突き放して行くというのに、届く声の響きはどこか優しく、悲しい。
その声だけを残して黒衣の姿が闇に溶けるのを、私は追うことが出来なかった。

―虚しく伸ばした手は、宙に浮いたまま、どこへも届くことがなかった。









言えないのは分かります。
でも、先生、突然過ぎなんですもの(泣)
特に、一度戻って、また消えてしまう倶利伽羅。
神子にしてみれば、切なすぎますよね。
実のところ、先生がどうしていったん戻ってきたのか、自分の中で納得できる理由が見つかってません;;;
九郎さんに頼むだけなら、九郎さんにだけこっそり会えば済むような・・・。
やっぱり望美ちゃんが危なっかしかったから、つい、なんでしょうか。



2005.4.26





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