想いだけが溢れてきて |
これで終わった・・・のだろうか? 私たちは―先生と私は、ただ呆然と晴れていく空を見上げていた。 辺りは、戦いの余波で未だ逆巻く波に荒れ、漂う平家の舟には人影はなかった。 この辺りの船は、すべて清盛が率いた怨霊たちが占めていたのだろう。 それも・・・留めていた黒龍の力を失って、消えた。 ただ、静かに雲間から差し込む光が、私たちを照らしていた。 先生を止める最後のチャンスに賭けた私は、一人で源氏の軍を離れ、先生に追いついたのだった。 そして、先生が今まで沈黙のうちに隠してきたことを・・・独りで抱えてきた想いを知ったのだ。 先生が私をずっと守ってきてくれたことを。 螺旋のように繰り返す、絶望と悪夢の中で、それでも諦めずに、戦い続けてきたことを。 自分が死ぬのだ、と言われても、それほど衝撃はなかった。 清盛と相討ちになって死んだと告げられたときの先生も、あるいはこんな気持ちだったのかもしれない。 実際に矢に射られて、死ぬのか・・・と思ったときも、意外に冷静だった。 その代わり、自分が先生をどれだけ哀しませたかを思うと、胸が痛くてたまらない。 先生の死の報せに、「ああ、こういうときは本当に目の前が暗くなるのだ」と思った、その感情が今でもありありと思い出せるから。 呼吸すらままならないような感じがして、麻痺したように何も感じないのに、頭のどこかだけは冷たく冴えている― そんな思いを、何度も何度もさせてしまったのだ。 だから、先生が私に「戻れ」と言う、その想いも、意味もよく分かる。 分かるけれど。 多分それでは、私にとっての生はあまり意味がない。 先生を失ったときの、あの抜け殻のような自分・・・それが本来の自分だとは思えないから。 生きるのなら、一緒に生きて欲しかった。 私の運命を変えるためではなく、先生の死を覆えすためだけではなく・・・二人の運命を二人で変えることを、私は願う。 そうして、先生は頷いてくれた。 「一緒に生を掴み取りに行こう」と。 並んで天を仰いでいた先生が、ぽつりと言葉を零した。 「手を・・・」 私は、その大きな手の中に、そっと自分の手を滑らせる。 掌に先生の体温を感じて、じんわりと心が温かく、落ち着いてくるのが分かった。 そして、だんだんと実感する。 やっと先生に、運命に、追いついたのだと。 つないだ手から伝わる体温とともに、胸の奥に凍らせ、押し込めていた感情もゆるゆると溶けていく。 先生は私に、いろいろなことを教えてくれた。 この戦の中で生き抜くための剣技、迷いを越えていくための強さ、皆を助けるための運命の上書き、そして・・・様々な感情。 惑い、哀しみ、喜び、切ないほどの愛しさ。 これほど強い感情を、今までに抱いたことはない。 先生の背中を追いかけた日々、平家との戦い、ぐるぐると胸の中で思い出が走馬灯のように廻り、苦しい思いや、哀しい思いは溶けるように消えていった。 そして最後に残るのは、溢れてくる貴方への想い。 純化された結晶のように、絡み合った膨大な記憶と感情の中から顕れてくる想いのままに、私は先生の胸に飛び込んだ。 強い腕が、きつく抱きしめてくれる。 「もう、絶対に離さない」 囁いたのは、先生だったのか、私だったのか― 声は、重なった唇の合間に閉じ込められたのだった。 |
終章まで辿り着きました・・・。 ここの先生の台詞一連は、石田さんの演技も心底素晴らしいので、とても印象的です。 いきなり師弟対決になったときや、二人で清盛に挑むときはどうしようかと思いましたが^^;(攻略一人めだったので・・・) 「背負えるものなら全て背負いたいのに」とか「私と一緒に運命を変えてください」とか好きな台詞がいっぱいです。 2005.7.24 |
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