例えば秋の昼下がり 【祐一×珠紀】



「先輩・・・・?」
暖かな秋の日差しを浴び、僅かな時間で微酔の中に入って行った彼に私は軽い溜息を吐く。


「祐一先輩?」
小さく呼び掛けた声に帰ってくるのは規則正しい呼吸の音・・・・。
ほんの数瞬、舞い降りてくる落ち葉に視線を奪われ、ふと気付いたら隣で私を見詰めていた筈の彼は夢の中の住人になっている。


「仮にも恋人をほったらかしで寝ちゃうなんて普通だったら彼氏失格なんだから。」
そんなところも彼らしいと思いながらクスリと笑って呟けば、唐突に伸びてきた腕に抱きすくめられ、数泊の後に私は切なげな琥珀色の視線に絡めとられていた。


「仮・・・・なのか?」
「・・・・?」


彼の問いかけの意味を計りかねた私に
「俺はおまえを何にも代え難い恋人だと思っているのだが・・・・。」
おまえはそう想ってはくれないのか?言外にそんな言葉を滲ませながら彼は悲しげな吐息をひとつ吐き、琥珀の瞳を哀しみの色で深くした。

「・・・先輩?」
(今、なにかとってもスゴイ科白をサラリと素で言ってのけませんでしたか?)

「しかも彼氏失格なのか・・・・。」
「・・・いや、だから・・・それは・・。」


彼の直球の告白にも似た言葉の余韻に浸る暇も与えてくれず、ましてや、『彼氏失格云々は言葉の綾だから』だという言い訳の言葉を挟む隙すら与えられず、彼は独り斜め後ろ向きな思考に落ち込んでいく。
此処に守護者の耳やしっぽが顕現していれば間違いなくシュンと音を立てて萎れる勢いだろう・・・・。

これまでも、常人の思考回路では到底思いつかない理論展開でイロイロ面倒な場面を引き起こしてくれた彼の、このアブナイ流れを一体如何やって止めれば良いのか・・・・


小春日和に恵まれた麗らかな日差しの中で懸命に次善の策を考える私に届いたのは祐一先輩の苦悩に満ちた声。

「だが、俺は今更お前を手放す事など・・・・・。」
「・・・・・・先輩・・・・?」
「どんなに想い人として失格であっても、俺はおまえを手放す事など出来ない・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」


彼から紡ぎ出される言葉を聞いて私は小さく溜息を吐いた。
結局今回も其処に結論を持って行った訳ですか・・・・・。
しかも呆れるほど見事に自分の力で・・・・・・。


優美な硝子細工を思わせる繊細な容姿や纏う雰囲気から忘れられがちになっている、かなり強かで、特定の事柄にのみ意外と自己回復の早い彼の性格・・・・。
そして、薄々はソレに気付きながらもいつも振り回され続けるちょっと懲りない自分・・・。

きっと、そんな所も含めて丸ごとの彼とそんな彼を大好きだと想う今の自分が愛おしくて、口許に仄かな笑みを浮かべる。
そして・・・・・。
久遠の刻を凝らせた琥珀色の瞳を鮮やかに輝かせ私の総てを絡め捕る彼の視線を感じながらゆっくりと瞼を閉じる。
きっともうすぐ降りてくる柔らかな彼の口吻を迎える為に。







文・・・「夢幻~mugen~」結花様
絵・・・芙龍

結花さんのお宅でキリ番を踏みまして、書いていただきました!
せっかくなので、今周囲で旬な(笑)緋色から祐一先輩をお願いしました。
この人も、綺麗でかっこよくて孤独で優しい・・・けど困った人ですね(笑)

いい機会なので、つけあわせのにんじんのごとく、イラスト描かせていただきました〜。
落書きとかはありましたが、ちゃんとした形での緋色イラストは初めて。

2009.10.18



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