明日の約束 |
「はい、泰継さん。これ、もらってください。」 差し出されたのは、綺麗にラッピングされた菓子箱。 「バレンタイン・・・だったな?」 「そうです、精一杯作ってみたんですけど・・・」 「ありがとう、花梨」 泰継は蕩けそうな笑みを浮かべて箱を受け取った。 丁寧にラッピングを開き、蓋を取る。 が、泰継は眺めているだけで、手をのばそうとしない。 「・・・甘いもの駄目でしたっけ?」 しばらくたっても、ずっとそうしている泰継に、不安になった花梨が尋ねると、 「いや。そんなことはない」 と返事がかえってくるが、それでもつまもうとはしない。 「形は悪いですけど、ちゃんと味見しましたから、味は大丈夫だと思いますよ」 「とてもおいしそうだ」 「じゃあ・・・何?」 もはや涙目になった花梨が重ねて尋ねると、泰継は子供のように照れくさそうに答えた。 「・・・もったいない」 「は?」 「食べるのがもったいない・・・」 「え、ええと・・・」 なんと答えてよいやら、困っている花梨を眩しそうに眺めると、泰継は呟いた。 「・・・お前は私に初めての気持ちをくれる。 それを、私はいつまでも手放したくないと思う。 以前は忘れることがないと思っていたが、今は自分の気持ちが次々と変化してゆくのが 分かる。 刻一刻と変わっていくこの感情を、ずっとそのままとっておきたい。 お前がくれるこの感情を、抱えていたい。 この瞬間を、そのまま止めておきたい・・・」 花梨はまっすぐに泰継を見ていたが、そっと言った。 「人間の思いに永遠はないんですよ」 泰継は少し傷ついたように花梨を見た。 「では、いつかお前も私もこの気持ちを忘れるのか・・・」 花梨は泰継の頬に手を添え、瞳を覗き込んだ。 「前、言いましたよね。人間には忘れることが必要だって。 それでね、毎日お日様が沈んでまた昇るみたいに、また新しい気持ちが生まれてくるん ですよ。 来年も、再来年も、私はまた泰継さんにチョコレートをあげたいし、お誕生日にはプレゼ ントしたいし、クリスマスだって・・・。 ね、繰り返し繰り返し、何度でも・・・。」 「花梨・・・」 花梨は、ひとつチョコレートをつまむと、泰継の口元に運んだ。 「はい、あーん」 素直に口を開けるところへ、そっと食べさせる。 「甘い・・・」 泰継は、光が差すように微笑した。 明日も、明後日も。 来年も再来年も。 おまえがくれる新しい感情を。 おまえの隣で、受け取っていたい・・・。 全然バレンタイン時期を外してますが、ふと思いついたので。
泰継さん、「私は忘れることがないから、きっとこの「寂しさ」を抱きつづける」 って言ってたので、こんな風には思わないかもですけど・・・。 なんか、子供のような泰継さんと、お母さんのような花梨ちゃん・・・。 2003.3.7
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