陽溜まりに似たあなた


朝起きたらなんだか頭が痛かった。
額に手をやりながら、花梨はむくりと起き上がった。
ひとつ頭を振って嫌な感じを振り払おうとしたが、くらくらしただけだった。
身体の節々が張り詰め、だるい。
穢れに当たった覚えはないのだが。
このところ、遠方にばかり出向いて札を探したり、怨霊を封印したりしていたから、少し疲れたのか、と思う。
足には自信があったのだが、とにかく歩き回り、しかも大の男の歩調に合わせてついていくのは正直なところ辛い。
自分が五行の力を操っているという実感はあまりないが、未だに戦闘も具現化も、呼吸を整える一拍の間が必要なくらいには緊張するのだ。
「でも頑張らないと」
水干に袖を通し、花梨は自分の頬をぺち、と叩いた。
早く結界を崩して冬を呼ばなくては。
あと、少し。
(かなめ)を崩せば、気が巡り、冬が来るはず。



「おはようございます。神子様」
軽い足音がして、紫姫が部屋に入ってくる。
と、花梨の顔色を見た途端、顔を曇らせた。
「どうかなさったのですか?どこか具合がお悪いのですか?」
「え、なんでもないよ。」
慌てて首を振るが、心配げな表情は変わらなかった。
「このところお疲れのご様子でしたもの。今日はお休みくださいませ」
すぐにでも花梨を床(とこ)に押し戻しかねない勢いで、紫姫が懇願する。
「大丈夫だよ。それに要を崩すためにも五行の力をもっと上げないと」
花梨はそう言ったが、しかしその口調には力がなかった。

そこへ御簾の外から声がかかった。
「失礼する」
「ああ、申し訳ありません、泰継殿。お待たせしたままでしたわね」
泰継は部屋に入ってくると、じっと花梨を見た。
真っすぐな視線に、花梨の心臓はどくんとひとつ高鳴る。
「体調がおもわしくないのか。今日は休め」
泰継の言葉に紫姫も頷く。
「お薬湯を用意させますわ。泰継殿、神子様をお願いします。」
「わかった。見張っている」
「見張るってなんですかっ」
真面目に請合った泰継に、むくれる花梨を任せて、紫姫は薬湯を命じにさがっていった。



(ええと・・。)
二人で部屋に残されてどうしてよいやら花梨はうろたえた。
「どうした?ついているゆえ、寝ていろ」
「で、で、でも」
ひとつ息をつくと泰継は花梨を引き寄せた。
「え?」
すとんと花梨の頭をひざに乗せ、袖でくるむようにして横たわらせる。

(わ、わわ)
しばらく顔を赤くして、手をぱたぱたさせていた花梨だが、触れる泰継の手のぬくもりが次第に柔らかく心を落ち着けていく。
ゆっくりと背をなでる手を感じると、力を抜いて身を預けた。
「風に無理に逆らう枝は折れるように、張りつめすぎていると気が滞る。
力を抜いて、自然に気を流してやるのが一番よい」
「でも、私は・・・」
「お前はよくやっている。今は休め」

耳に心地よい声と、優しい手に、気持ちがゆるくほどけていく。
身体も心も強張っていたのだ、とそうして初めて気付いた。
花梨は身体を丸め、甘えるように泰継の衣の端を掴んだ。
(あったかい・・・。
なんだか、すごく・・・なんていうのかな・・・。
そう・・・冬の・・・小春日和のお昼みたいな・・・とっても・・・安心・・・)

ゆっくりと眠気がおそってくる。
「明日はまた頑張るから・・・だから・・・」
とぎれとぎれの言葉に泰継は優しく答えた。
「そばにいる。ゆっくりと休め」
眠りにおちる穏やかな花梨の顔を見つめながら、泰継はそっとその背を撫で続けた。
「そばにいる。お前が望むのなら、いつでも・・・」





またしても、夢見がちな慰め話^^;
お疲れなあなたに捧げます(笑)
それにしても京ものを書くときに、いつも思うこと。
「この段階でこんなこと思う(言う)だろうか?」
本当なら、泰継さんはまだ、ぐるぐる悩んでるのでしょうが〜;;;
あー、タイトルはまた思いつかずに、なんとなくです;;;

2003.11.14



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