月のむこう


なるべくなら、いつでも可愛らしく笑っていたい。
優しい空気を纏って、周りを、彼をやすらがせてあげたい。
「まだまだ修業が足りないなあ・・・」
花梨はひとつため息をついた。
やっぱりへこんだときには甘えたくなってしまう。
泰継にそばにいて、優しくしてほしいと願ってしまう。
「わがままだな、私・・・」
本当はこんな気持ちをぶつけたくはない。
だが、ほんの少しだけ。
甘えさせて。
花梨は携帯を取出し、メールを打った。



花梨から、と着信音が告げている。
泰継は、すぐに作業の手を止めて、、メールを確認した。
なんということのない、いつもの雑談の最後に「今日は大変だったよー」と書いてある。
それだけだが、泰継には花梨が甘えたがっているのが分かった。
すぐに行って、慰めてやりたい。
だが、空間と時間に制限のある身である以上、叶わぬこともある。
それに、花梨の強がりと気遣いを尊重してもやりたかった。
しばらく考えて、泰継はぽつぽつとメールを打った。



先程のメールからさほど間をおかず、返信が返ってきた。
彼が会話してくれているようで、少し嬉しくなる。
『花梨、外に出て上を見ろ。寒いから上着を忘れるな』
上?と思いながら、花梨は上着を取って外へ出て、空を仰いだ。
「うわ・・・・」
息が白くなるほど寒いが、空気が澄んで、まばゆい月が浮かんでいた。
『そばに居られぬ時は、私も同じ月を見ていることを、思い出してくれ』
この場にはいない泰継の想いが、ぬくもりとなって心を撫でていくようで、花梨は目を閉じ微笑みを浮かべた。




日記にぺろっと貼ってた話ですが、改めてこちらへ。
またもや、元ネタは妹提供^^;
へこんだときに、なりきりメールをもらって、不思議なくらい元気でました。

2003.12.10



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