密やかな誓い |
全てのものが眠りにつき、静けさが闇に満ちる刻限。 暗がりに抗する篝火のもと、長身の端正な影がじっと警護の任についていた。 その視線は館のうち、今は穏やかな眠りの中にあるはずの尊き存在にはせられている。 と、枝のこすれる音がし、青年は瞬時に刀に手をかけ振り向いた。 「頼忠、私だ」 「泰継殿」 木立の影から現れた陰陽師は、足音をたてない歩みで灯りのもとまで寄ってきた。 「なにかあったのですか?」 頼忠は身構えを解き、軽く目礼した。 「神子が昼間、穢れにあたったゆえ、念のため館周辺を清めている。」 「ああ・・・、そうでしたか」 夕刻、神子は泰継とイサトに抱えられるように館に戻った。 すぐに穢れを祓い、大事はなかったが― 「我らがついていながら・・・」 「泰継殿・・・」 「むざむざ神子を穢れに近づけたとは、私の失態だ」 揺れる篝火の灯りに、眉を寄せた泰継の表情がうかがえた。 「もとより陰陽師たる者、常に油断や失態は許されぬ。 それ以上に神子を守るためには瑕僅すらあってはならぬというのに・・・私は無力だ」 珍しく饒舌な陰陽師に頼忠は内心驚くとともに、共感のようなものを覚えた。 「神子殿も先程そのようなことをおっしゃっていました」 「神子が?」 「宵に階で泣いておられたのです」 泣いていたと聞いて、泰継の顔が曇る。 「それは、ご自分を責めてのことです。 自分が失敗したから、泰継殿たちに迷惑をかけた・・・ 神子としての力が不十分だから八葉に負担がかかる・・・と」 「神子が責を感じることはない!」 叫んだ泰継に頼忠は真面目な顔で頷く。 「ええ。ですが神子殿はそのあと、こうもおっしゃいました」 ―今は駄目だけど、明日は出来るかもしれない。 そのことだけは諦めずに信じているんです。 そして、涙をぐいと拭って、輝くように笑って見せた。 その顔は、頼忠の胸のうちに深く刻まれたのだった。 「我々武士も常に死と隣り合わせにあるもの、泰継殿のおっしゃりようは分かります。 油断も力不足も、敵を前にしては許されない。 しかし、稽古や経験なくして力を得ることは出来ない・・・」 とつとつと語っていた頼忠は、双色の瞳がまっすぐ己を見ていることに気付き、慌てて首を振った。 「申し訳ありません、出過ぎたことを・・・」 「いや、礼を言う」 泰継はそう言ってかすかに笑った。 「そうだな。己が無力を嘆くよりも、明日、神子を守る力を・・・」 ちり、と微風に火の灯りが揺れる。 二人の青年は彼らの守るべき者が眠る屋敷うちへ目をむけ、しばらくじっと佇んでいた。 そして、それぞれに再び己の勤めに戻っていった。 大切なものを、守る意志を持って―
カウンタ18888、自爆してしまいました。
ので、突発的に書いた(昼休みに携帯で書きましたよ^^;)お話もどきですが 行事部屋ものとしてアップ。 ・・・フリーにしても、需要がなさそうですが・・・持ち帰りたいという方はお持ちくださって結構です。 泰継さんと頼忠さんって、自分に厳しく職業的にプロだと思うのです・・・。 幸鷹さんとか、翡翠さん、彰紋くんとかもそうなんですが・・・やはりこの二人は書きやすいので。 天青龍ってこういう不器用な諭し役のイメージがあります、なんとなく。 CDドラマやコミックスのせいかな。 2004.9.3
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