花想影


まだ明け染めたばかりの空の下、泰継は四条への道を急いでいた。
急いだところで、まだ花梨も支度が出来ていようはずがない。
それは承知していながら、一刻でも早く、と心が急いてしまう。

その急いでいた足がふと止まった。
道端の明るい黄色が目に入り、足を止めさせたのだ。

(石蕗か・・・)

すっと伸びた茎の先に咲く、鮮やかな黄色の花。
その様は、なんとはなし、花梨を思わせる。
伸びやかでまっすぐな眼差しと、明るい笑顔を思い浮かべて、泰継は口元を綻ばせた。 

(だが・・・昨日はずいぶんと沈んでいたな) 

昨日は泰継は同道しなかったのだが、怨霊の封印に失敗し、居合わせた子供に怪我をさせてしまったのだという。 

(これを見たら、神子も心和むやもしれぬ)
 
自分は上手く励ますことも、笑わせてやることも苦手だが・・・ 
この明るい色の花を見て、笑ってくれればいい。 
そう願って、そっと石蕗を手折った。

大事に花を袖にくるむようにした泰継は、また四条を目指して道を急ぎ始めた。





一日の務めを終えて、花梨は自室へと戻ってきた。
ほんのりとした灯火の明かりを受けて、黄色い花びらが揺れている。
その明るい黄色を見ていると、胸の中にもその色のように暖かい気持ちが湧いてくる。

(前は、石蕗って花の名前も知らなかったのに・・・)

元の世界では、季節外れでも、バラや蘭やガーベラや・・・華やかな花が手に入ったものだった。
だが、今はどんな華やかな花よりも、この石蕗がいとおしく感じられる。

すっと伸びた姿は、いつも凛と佇むかの陰陽師のよう。
暖かな黄色は、無表情の下に隠された彼の優しさのよう。

(だからこの世界の人は・・・ううん、私の世界でも・・・人は大事な相手に花を贈るんだ・・・)

自分の心を花に託して。
相手の姿を花に重ねて。

(ありがとう。
明日も頑張るね・・・。
お休みなさい)

笑みを浮かべて花を見遣りながら、心の中で泰継に語りかけ。
花梨は穏やかな眠りにつくのだった。






石蕗は、私本当に知りませんでした、遙かをやるまで;;;
今は、見かけただけで心和む花です。

2005.11.23



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