太陽を請う |
扉の外に明るく暖かい、陽光のような気が近づいてくる。 弾むような軽い足音、廊下をやってくる気配。 時間にすれば、ほんのわずかの間なのに、じりじりと待ち焦がれる心を抑えきれない。 泰継は、ゆっくりと立ち上がった。 玄関まで、だいたい10歩。 一呼吸置いて、ドアを開ければ、花梨を驚かせずにすむだろう。 驚く顔も悪くはないが、今日はドアを開けた瞬間の、輝くような笑顔を見たいから。 「こんにちは、泰継さん」 扉の向こうから陽光が差すように、笑顔の花梨が現れる。 両手に抱えた荷物を受け取ってやりながら、泰継は暖めた室内へと花梨を通した。 「外は寒かったろう」 「そうですね〜。でも、雪が降るかもしれませんよ」 寒さで頬を赤く染めつつも、嬉しそうに花梨が言う。 「ホワイトクリスマスなんて、ロマンティックじゃないですか?」 正直、ロマンティックなのかどうかは分からないが、花梨がそれを嬉しいことだと感じるのなら、泰継も嬉しいと思う。 クリスマスという異国の祭り自体も、泰継には馴染みのないものだったので、戸惑うところが多い。 花梨が持ち込んだリースやミニサイズのツリーを飾りつけ、キャンドルを灯し・・・と支度をしているのを手伝いながら、泰継は興味深く見守った。 陰陽の祭祀で場を設定し、壇を設えるようなものなのだろう・・・と勝手にかつて馴染んだものになぞらえて理解する。 キッチンに立って、お湯を沸かしながら花梨が振り向いて話しかけてくる。 「街もイルミネーションとか、すごく華やかでしたよ」 「確かに、盛大な祭りのようだな」 「冬は花とか色が少なくて、ちょっと寂しくなっちゃうから、明るい色で飾るのはいいですよね」 そう言われて、泰継はなるほど、と一人頷いた。 「そうだな・・・。 冬は『気』が鎮まり停滞する時期だ。 それをあえて引き立てて、気を高めようとする知恵なのやもしれぬな」 「・・・し、深遠なんですね・・・」 テーブルにケーキと紅茶を用意して、電気を消して、ツリーの電飾をつける。 並んで座って、触れた肩からほのかに伝わる体温に、胸の奥が暖かくなるような幸せを感じる。 「メリークリスマス、泰継さん」 「メリー・・・クリスマス、花梨」 真似をして返す泰継のぎこちない口調がおかしかったのか、花梨がくすっと笑う。 しばらく、二人とも黙ってチカチカと煌く電飾と、揺れるキャンドルの炎を眺めていた。 この世界では、夜でも明るくて、真の闇に包まれることはほとんどない。 だから、忘れそうになる。 光がどんなに貴重で、どんなに慕わしく、胸の内を焦がすものか。 この異教の祭りも元は、太陽を請う祭祀だったのだと聞く。 冬の最中、闇が長くなる時期に、太陽を求める人々の心情は洋の東西を問わず、切実なのだろう。 かつての自分は、夜の闇も、冬の厳しさもただの事象としてしか受け止めなかった。 陰陽の祭祀を司りながら、そこに込められた人の願いを、感じとれはしなかった。 だが今は−−− 闇を照らす光を、冷たく凍る心を溶かす暖かさを、請い求めてやまない。 花梨という存在は、泰継の中に陽光のように想起される。 聖夜の慈悲を求める人のように、泰継は手を伸ばして花梨を抱き寄せる。 腕の中の存在が与えてくれる奇跡を、噛み締めながらゆっくりと目を閉じた。 久しぶりすぎて、文章の書き方を忘れてる感が・・・。
イメージを文章に変換するのに大変もどかしい思いをしました。 冬至の祭=太陽=神子 というイメージを書きたかったんですが・・・なかなか難しい・・・。 ともあれ、「メリークリスマス」 2007.12.6
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