互縛鎖


「よい日和になったな」
「お花見日和ですね」

泰継に手をとられて、花梨は山道を歩いていた。
久々の軽装に、穏やかによく 晴れた空。
京に残ることに決めてから、こちらの習慣の勉強に忙しく、重い着物で屋内に篭っていることが多かったから、花梨は解放感も手伝って、高 揚した気分だった。

それでなくとも、晴れた日の満開の桜には、人を浮かれさせる雰囲気がある。
おまけに大好きな人と二人で、一日 デートとなれば。
横を歩く泰継を見上げれば、光を弾いて輝く桜に溶けてしまうかのような、白皙の面が目に入る。
ともすれば、無表情ゆえに 人間離れした美貌は、桜の精霊のようで、花梨は目を瞬いた。

花梨の視線を感じたのか、泰継は「どうした?」とこちらを向いて、柔らかく微 笑する。
その笑みに安堵するとともに、それが向けられる先が自分であることに胸が高鳴った。
花梨は、意味もなくこみ上げてくる笑みを押さ えきれず、照れ隠しに先にある桜の木へと走って行って、くるりと幹の影に隠れた。

「花梨!」
「え?」

花梨として は、たいした意味はない行動だったのだが、泰継が血相を変えて追ってきたので、驚いた。
「や、泰継さん?」
更に、堅く胸の中に抱き込まれ て、目をしろくろさせる。
「ど、どうしたんです」
「・・・行かないで、神子」
久しぶりに聞くその呼称と、子供のような戸惑った声 に、花梨は胸を衝かれた。

「どこにも行きません。どうしたんですか?」
自分も泰継の背中に腕を回して、そっと囁くと、小さく呟く 声が返ってくる。
「この絵のような景色の中に、光るお前の気が馴染みすぎていて・・・消えてしまいそうで」
「え・・・。
・・・私 はずっと泰継さんの傍に居たいですよ。
それに、私も思ってました。
泰継さんの清浄な雰囲気は桜の精みたいで、この景色に溶けてしまいそ うって」

まわした腕に力をこめて、花梨は続けた。
「でも、今はこうして泰継さんの体温を感じてるから、大丈夫・・・。」

お 互いの腕が、お互いを繋ぎとめる鎖であるかのように、二人はそのまま相手を抱き締めていた。







桜の季節なので、貧乏性にもブログからサルベージ。


2010.4.2 up



書庫へ
メニューへ